『Baba Is You』について語りたい

倉庫番パズルと聞いて何が真っ先に思い浮かぶだろうか?

私は小学生の時初めてプレイした”憎き”思い出である、ポケモンの「かいりきパズル」を思い浮かべる。アレは難易度以前に楽しくないのだ。そもそも私はポケモンを倒したり捕まえたりしたかった。小学生ぐらいの精神年齢でパズルゲームの評価もどうこうもないが、幼い私のパズルゲームへの先入観は、間違いなく悪いものとなった。

長編ゲームの途中に出てくる埋め合わせのようなミニゲームではない、それこそ『Baba Is You』のような本格的なパズルゲームに出会ったのはついこの前だった。『The Witness』というゲームだ。

『The Witness』を一言で表すなら「強敵」が相応しい。

まずこのゲームは静かである。今思えば、現在主流といえる、具体的なチュートリアルや説明無しにゲーム性をプレイヤーに探らせるタイプのゲームは、私にとってこれが初めてだった。説明が無い分とっつきにくいが、その分自分の力が試されるわけだから没入感や達成感が凄い。

『The Witness』の難易度モデルはまるで数学のようだ。最初に「公式Ⅰ」を習ったと思えば、次にはその応用である「公式Ⅰ+」がやってくる。そしてそれらをなんとか片付けて別の”島”を目指すと、次はまるで違うアプローチの「公式A」に出会う。更に次の”島”ではそれらを合体し応用させた「公式ⅠA」、最終的には「公式ⅠⅡⅢABC」のような……。

このゲームは最高のパズルゲームの一つであることは間違いないのだが、私にはあまりにも難しすぎた。この難易度モデルにおいて頼れるものは100%が自分の力だ。学習したことを忘れたら応用は効かない。そして無い頭から発想は捻り出せない。この先絶対に面白いパズルが続くことは分かっているのだが、それ以上に難しすぎて足が踏みでなかった。
攻略サイトを本当に一切見ずにクリアした人は果たして何人いるのだろうか?

『Baba Is You』はまだ優しい。なぜならこのゲームはどこまで行っても倉庫番パズルだからだ。動きの範囲が1マスずつであること、そしてルールブロックの組み合わせがある程度限られることから、極論の極論で言えばガチャガチャ試しまくればクリアできる。

このゲームが何より凄い点は、一言で表すと「枠に囚われない」特性である。

(※さて、ここからは少しゲームのネタバレが入る。私が思う『Baba Is You』の最高なところは、ネタバレ無しには語れなかった。)

まず一つ、枠に囚われなかったポイントはクリアした後にある。
数々のユニークなステージを攻略し続け、パッと見てゲームをクリアしたと思った時、そこはまだ分岐点でしかなかった。その分岐点からは、『Baba Is You』に対する全ての常識を覆すことになる。
このことはまるで小学生で習う理科のようだと思う。振り子の速度の求め方をようやく理解したと思ったら、そこには実は空気抵抗や摩擦係数が隠れていたことを知ることになるような……。そんな小学生の義務教育から、大学の研究に進むような、上には上があるという驚きを一瞬で得ることとなる。

もう一つユニークな点として、ルールに対する柔軟さが考えられる。ルールの穴をつくようなルール ――これはもうルールというよりは仕様に近い―― が多い。そしてその塩梅がなかなか良い。奇想天外な解法でも「クソゲー!」とはあまりならない。
まずそもそもそういった穴を突くような行為は、ゼルダのRTAの様に、ユーザー側が行うはずだ。しかし『Baba Is You』においては作者が喜んで自らルールの穴を突く。その最たるステージとして(※これはかなりなネタバレになってしまうが)、解法が「無い」ステージがある。もちろんクリアする方法はあるのだが、あまりにも特殊すぎるのだ。枠に囚われてはいけないと言ったが、それにしても枠が広すぎる。

正直に申し上げるが、私は全ステージの半分は答えを調べてクリアした。最低10分は悩んで、少しもダメそうだったら答えを見てクリアすることを繰り返した。そうでなければ私の脳みそではゲームクリアに数百年を要しただろう。
しかし全く後悔はしていない。その難しいパズルのメカニクスを知れただけで十分良かった。また次のステージではどんな”枠超え”が起こるのだろうか?もう目の前のステージに悩むよりも、『Baba Is You』の全てが知りたくなってしまったのだ。